硝子をめぐる冒険

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硝子をめぐる冒険

第18回「流体包有物と資源探査」

水田 敏夫 氏

秋田大学工学資源学部地球資源学科 教授

はじめに

近年深海探査艇による調査がすすみ、海底の煙突(チムニー)からあたかも黒煙が吹き出すかのように熱水が立ち上る噴出口が次々に発見されている。黒煙状のものは、300℃程度の熱水が海水で急冷され晶出した鉱物を含んだ熱水である。ガラスを作成されている方々は、より純粋な成分のもの、より均質な物質を目指しておられるであろう。一方,資源がどのようにしてできたかといった地学現象を対象として取り扱う場合、複雑な成分の熱水やマグマ、それらから生成された鉱物や火山ガラス等を取り扱うことになる。その中でも、鉱物中に取り残された流体を検討することは、資源生成の研究分野(鉱床学)にとって重要な手段である。この流体包有物について簡単に述べさせていただく。

流体包有物とは何か

鉱物と鉱液との元素の分配などから、間接的に鉱液の化学組成を推定する方法もあるが、間接的方法だけで鉱液を推定するより、鉱液そのものを何とか直接分析できなかとの願望が、鉱物資源を取り扱う研究の駆動力となっている。資源ができつつある海底熱水鉱床では、熱水を直接採取できるが、実際の鉱床やその有望探査地域で手にすることのできるのは岩石や鉱石である。この鉱石に含まれる鉱物中にはごく微量の流体包有物が含まれている。

鉱物が水溶液(またはガス)から結晶成長をするときに、周りの水溶液(またはガス)も取り込んで成長していく。特に、結晶成長の速いときにこのような現象が起るらしい(図1)。

fig1

図1.主要な包有物トラップのメカニズム3)
(a) 急速な樹枝状の固体成長によるトラップ。(b) 部分的な溶解と再生長。(c) 個々の成長スパイラル同士の間、もしくはその中心によるトラップ。(d) 平行な連晶の間隙によるトラップ。(e) 不完全成長による結晶内の破断面のトラップ。(f) 成長表面上の異物によるトラップ。

流体包有物とはこういう鉱物中に取り込まれた流体のことである。この流体包有物は非常に小さく、長径10-100μm程度のものが多い。たとえば、石英中に約109個/cm3も含まれているとの計測データもある3)。流体包有物の体積は小さくて、鉱物に対する体積比は約0.1%にすぎない。しかし、ときには肉眼でみえるくらいの流体包有物をみつけることもできる。巨晶花崗岩の中に産する石英は時に長径数メートルの大きさに達するものもあるが、その中の流体包有物には人頭大ほどのものも報告されている。この流体包有物はわれわれに温度、圧力、化学組成、同位体組成など、さまざまな情報を提供し、資源の探査に大きく貢献している。流体包有物は、鉱物資源生成時の熱水の様子を指し示すことから、鉱液の“化石”といわれている。

鉱床における流体包有物の研究
A. 流体包有物による温度測定

現在も活動的な熱水について、その温度を測定するあるいは評価することは比較的容易である。しかしながら、地質時代に生成した熱水性鉱床に関しては直接測定することはできない。この場合によく用いられる方法が流体包有物による温度測定である。鉱物が熱水から晶出する場合、しばしば熱水を不純物として取り込んで成長し、流体包有物として結晶内に残す。熱水が沸騰していなければ、流体包有物として取り込まれた時点で、熱水は均一な流体状態(1相)にある。ところが,熱水活動が終わり、周囲の岩石の温度も下降してくる。鉱物が常温条件におかれると,流体包有物は主に水蒸気、まれに二酸化炭素など揮発性ガスを含有する気相と塩類などが溶解している液相に分離する(図2)。

fig2

図2.50℃以上、低圧部における水の状態図 (Fisher, J. R. 1976)
コンターは等密度線 (g/cm3)。cpは臨界点(374℃, 220bar)。1)

鉱化作用が生じた時点での熱水は一般に流体とよばれ、水の臨界点近傍では、水とも気体ともつかない“さらさらの流体”として存在する。鉱化作用の時点で取り込まれたまま残っている流体包有物を初生包有物と呼ぶ。この流体の密度は常温条件下での水溶液の密度に比べて小さいため、流体包有物の密度が鉱化作用時の熱水の密度と等しくなろうとして、液相中に低密度の気相が生じる。流体包有物として取り込まれた後,結晶の溶解や破壊で封印されていた熱水の一部がリークしたり、再晶出により新たな熱水が再注入する複雑な現象も起こりうるので、取り扱いに注意が必要である3) 4) 5)

実験室の中で気液2相の流体包有物を加熱していくと、液相の密度は減少し、やがて、鉱化作用時の熱水の密度と等しくなった温度で気相(あるいは液相)が消失する(図2)。このときの温度を均質化温度 (Th) と呼び、気相が消失する包有物を液相包有物と呼ぶ。一方、まれではあるが流体包有物の密度がきわめて小さい場合、加熱に伴って液相の体積が小さくなりやがて消失する。このような包有物を気相包有物と呼ぶ。鉱化作用が生じた際の熱水の圧力が飽和蒸気圧にきわめて近いとき、均質化温度は熱水の温度を表していると考えられ、これが求める熱水の温度になる。高温熱水系の存在を示す証拠をもとに鉱床探査は進行するので、均質化温度は重要な基礎データとなる。

B. 流体包有物による塩濃度測定

天然の熱水の多くはH2O-NaCl系で近似することができるので、飽和蒸気圧以外の圧力条件下ではH2O-NaCl系の熱水の密度に関する実験結果をもとにして温度を求めることができる。流体包有物を冷却すると氷が生成し、氷の融点から凝固点降下度が求まる。実際は過冷却して凍らせていた流体包有物中の液相が完全に溶ける温度を求めることになる。流体包有物の化学組成をH2O-NaCl系で近似した場合、凝固点降下度とNaClの濃度との関係がすでに実験で求められているので(図3)、濃度をNaCl相当濃度 (NaCl eq.) としてデータを取り、資源金属を十分含んで移動してきた高塩濃度流体として、やはり鉱床探査の重要な基礎データとなる。

fig3

図3.1気圧、低温部のNaCl-H2O系のT-Xプロット
凝固点降下の原理を使って塩濃度を知ることができる (Potter et al., 1978)2)

C. 最新の流体包有物研究

近年の流体包有物研究として、多くの分析技術や解析手法が用いられている。例えば、加熱実験は、流体包有物の均質化温度と塩濃度を知ることができる簡便な方法として多くの研究で用いられていることは先に述べた。流体包有物中に含まれる二酸化炭素、メタンのガス分析も広く行われている。真空中やある種のガスの雰囲気の中で鉱物を圧砕・破壊してガス(揮発性成分)を取り出し、ガスクロマトグラフで分析をする。普通は水蒸気が大部分を占めており、二酸化炭素、メタン、HeやArなどの希ガスなどがこれに継ぐ。これは鉱物ができたときの流体組成を反映しているので、やはり生成環境の推定や鉱液の起源を論ずるのに非常に有効である。

一方、近年、イオンプローブ、顕微ラマン分光法、PIXE分析、ICP質量分析などの機器を用いた化学分析法が急速に進歩しており、単一流体包有物サイズの対象物についての化学組成を知ることが微小領域かつ微量成分分析が可能になりつつある。秋田大学においては、金鉱床に多産する石英や黒鉱鉱床に産する閃亜鉛鉱中の流体包有物1個1個の分析を行っている(図4)。流体包有物の化学組成としてNa、K等のアルカリ元素、Ca等のアルカリ土類、Cl等のハロゲン元素・希土類などの比および酸素、炭素、硫黄の同位体組成、He・Arなどの希ガス成分の同位体組成を調べることにより熱水の周囲の岩石との反応に伴う変化などの情報や熱水の履歴を知るための研究が進んでいる。

fig4

図4.レーザー気化によるICP質量分析の例としてレーザー気化後の分析試料表面を示す。
試料は青森県温川含金黒鉱鉱床産石英および閃亜鉛鉱。分析クレーター(この直下に流体包有物が分布していた)の周りは、気化によりエアロゾル化したものが付着。

たとえば、菱刈金銀鉱床は金品位の高い世界的規模の鉱山であるが、その鉱化作用の研究について触れる。高橋ほか (2002) は、菱刈鉱床の石英中の金、希土類元素含有量、流体包有物の分析から、金鉱化作用の時空変化を明らかにした。それによれば、金鉱脈は地層中に数m幅で分布するが、その脈は生成した順に外側から内に向けて細かい帯に別れている。この細かい帯状の細脈を分析した。「銀黒バンド」と呼ばれる高品位金鉱石は鉱化の初期に高温かつ高塩濃度で、その熱水は多くの金や希土類などの元素を豊富に溶解して、地表近くに運ばれ金鉱石を沈澱させた火山性の温泉活動であったと報告している。

このような分析手法によって得られたデータは鉱床形成のメカニズムに新たな視点を与えている。例えば、斑岩銅鉱床には、気相をトラップした流体包有物と液相をトラップした流体包有物が共存する領域が見られるが、気相に銅・金などの重金属元素が多く濃集することが、ICP質量分析による個々の流体包有物の分析結果から報告されている。このことから、熱水性鉱床の形成過程における金属元素の挙動への気相の関与が指摘されるようになった。

また、海底熱水系を初期生命発生の有力候補地であるという視点で捉え、岩石・熱水反応を経て生成されつつある海底熱水チムニーを調べ、チムニー鉱石に含まれている鉱物の表面で起きるアミノ酸などの有機物合成反応を有機地球化学と微生物学の手法を融合して研究する動きも活発化している。この分野では、流体包有物分析の手法の重要性が、有機物の熱水環境での安定性の室内研究において注目されている。

おわりに

資源がどのようにしてできたかといった複雑な地学現象を対象として取り扱う鉱床学の分野、多岐にわたる微量成分を含有する熱水やマグマ、それらから生成された鉱物や火山ガラス中でも、鉱物中の流体包有物の分析は重要である。上記の流体包有物の分析法のノウハウを活用して人工流体包有物を実験室で作成も可能である。この人工包有物法は、in-situの溶液サンプリングに近似できる方法で容易に採取できるなどの利点から、多くの熱水実験に応用され、その熱水条件の推定にも重要な役を果たしている。また、流体包有物温度測定の補正試料としても有効である。

400℃程度に加熱した石英を、蒸留水に浸して急冷するとクラックが生じる。その結晶を溶液に浸し、実験温度・圧力を数日間保持すると、クラックを覆うように石英が再結晶し、クラックに浸入した実験条件下の熱水溶液が人工流体包有物としてトラップされる手法である。熱水条件下におけるこの方法を利用して、規則的にある不純物や着色剤を含んだ溶液とそれを意図的に閉じこめた流体包有物入りの装飾用のガラス素材の作成も可能ではなかろうかと空想を大きくしている。

参考文献

1) Fisher, J. R. (1976) : The volumetric properties of H2O- a graphical portrayal. U.S. Geol, Survey Jour. Res., Vol. 4, 189-193.
2) Potter, R. W. II, Clynne, M. A. and Brown, D.L. : Freezing point depression of aqueous sodium chloride solution, Econ. Geol., 73, 284-285 (1978).
3) Roedder, E. : Fluid Inclusions, Reviews in Mineralogy. Vol.12, 644pp., Min. Soc. Amer., Washington (1984).
4) 笹田政克:流体包有物マイクロサーモメトリーの基礎-地熱編-(1), 地熱エネルギー, 13, 39-55 (1988).
5) 笹田政克:流体包有物マイクロサーモメトリーの基礎-地熱編-(2), 地熱エネルギー, 14, 27-42 (1989).
6) 高橋美和・水田敏夫・石山大三・木村純一・高田実彌 (2002):LA-ICP-MS分析法による菱刈鉱床含金石英脈の石英中の微量成分の特徴と鉱液の起源.資源地質, Vol. 52, No.1 (51-68).

NTR News第20号 (2002年12月10日発行) に掲載

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