硝子をめぐる冒険
第19回「国際ガラス会議について思うこと」
産業技術総合研究所 理事
来年の9月下旬に京都国際会議場において第20回国際ガラス会議(20th International Congress on Glass, 会議略称ICG)が開催される。この会議は国際ガラス委員会(International Commission on Glass, 略称は同じくICG)と開催国の共同主催となっており、日本では、1974年に第10回を開催して以来30年ぶりということで、日本セラミックス協会の組織委員会(委員長・大田陸夫京都工芸繊維大学教授)をガラス産業協議会が財政的に支援する体制で準備が進められている。ここでは、ガラスをめぐる話題として、ICGの活動を中心に述べる。
ガラスは古い歴史を持つが、工芸品や生活必需品として確立されたのは、7世紀頃に東方からガラスの技術が貿易の中心地であったヴェネチアに伝わり、それをもとに独特の美意識を表現するヴェネチアン・ガラスが生まれたことが始まりであるといわれている。14世紀中頃には製品がヨーロッパ各地に輸出されるが、その技術を独占しておくために職人はムラーノ島に閉じ込められるものの、16世紀頃になるとヨーロッパ各国に移住する職人が現れ、技術は諸国に伝えられ、そこで地域に特徴のある多種多様な製品が生まれた。ボヘミアン・ガラスもその一つである。
20世紀に入ってガラスの近代的大量製造法が確立されると、国を越えての技術や製品の交流が盛んとなり、地域によって呼び方の違う技術用語や、輸出入されるガラス製品の特性値や測定法についての相互理解が必要となった。その必要性を俯瞰的な立場から強く感じて積極的に行動したのは英国ガラス技術協会のターナー教授である。保守的な業界を説得して、米国、フランス、ドイツ、イタリアへの代表団派遣と受入れを試み、1910年代後半から十数年かけて世界恐慌を乗り越えてこれを実現させた。その集大成として、スペインを加えて国際ガラス会議が1933年にベニスで開催され、その終了時に今後の国際協力と定期的な会議開催を目指した恒久的な委員会の設置が承認されて国際ガラス委員会(ICG)が設立された。当時のガラス業界の状況や費やした期間からみて、ICGの設立はターナー教授の壮大な冒険であり、その努力なしには実現しなかったといえる。日本はイギリスで開催された1936年の第2回会議からICGに加盟している。
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2002年ICG開催場所:"Le Corum" in Motpellier, FRANCE |
国際ガラス委員会は国際会議の開催だけではなく、研究者・技術者のより密接な研究協力の場として1958年以降特定の課題に取り組むために「機械的性質」「電気的性質」「環境問題」「ガラスの中のガス」「センサーと高度制御」「ゾル―ゲル・ガラス」「ガラス形成融体の特性」「オプトエレクトロニクス用ガラス」「ガラス溶融過程のモデル化」などの技術委員会を設けており、現在、各国から推薦された産官学の350名余りの委員、日本からも32名の委員が20の技術委員会に分かれて活動をしている。
さて、国際ガラス会議そのものは単なる学術的成果発表の場よりもガラス関係研究者・技術者の意見交換の場としての役割をもっており、同時に上記の技術委員会も開催される。会議での発表件数は1950年代の数十件から1990年代以降の数百件を越えるようになってきているが、その内容については、第2次世界大戦以後の学術研究の急激な広がりを反映して、初期に較べてガラス構造・物性・結晶化などの基礎科学的な論文の割合が図1のように急速に増加したが、1980年以降になると溶融・制御・新製品などの技術的な論文も相当数あることが分かる。
図1.論文の性格の推移
いうまでもなく、ガラスの最大の強みは優れた光透過性であり、最大の弱みは壊れやすいことである。前者の代表例は光通信用ファイバーであるが、30年前の第10回国際ガラス会議で光ファイバー作成についての技術的な発表がベル研やコーニング社から行われたが、それ以後のわが国におけるこの分野の研究開発を加速させる導火線となったことは確かである。当時に較べて我が国のガラス製造技術は格段に進歩し、またガラス構造や物性などの学術研究も盛んになり、世界のトップレベルに到達しているが、どちらかと言えば材料の研究開発に留まっており、システムやプロセスと融合させた研究開発にはまだ到ってないように見える。
今回、経済産業省が立ち上げている「フォーカス21」研究開発プロジェクトでは3年で実用化の目処をつける目標が設けられている。それを達成するには、このような融合が不可欠と言える。その中にナノガラスの2つのプロジェクトが含まれており、計画通りの成果が出れば、素材としてのガラスにブレークスルーをもたらす可能性を秘めている。特に、「ディスプレイ用高強度ナノガラスプロジェクト」では、ガラスの割れ易さの改善につながるもので、ICGの「機械的性質」委員会が40年あまり継続して取り組んできている課題であって、まだ解決の糸口が掴めていない。このプロジェクトからガラスの割れ易さを改善するための技術的にもブレークスルーが生まれ、来年の会議に報告されて、30年前に我々が光ファイバーに関する発表から受けたと同じような感激を外国からの参加者に与えることが出来ればと期待するのは少し高望みであろうか。
※NTR News第21号 (2003年4月10日発行) に掲載


