硝子をめぐる冒険
第21回「超高圧変成岩発見20周年:研究の進展と現状」
京都大学大学院理学研究科
地球惑星科学専攻・地質学鉱物学分野 教授
1983年9月に開催された高圧変成岩に関するペンローズ会議(米国ワシントン州)において、C.Chopin(論文1):公表は1984年)が"イタリア西アルプスの地殻物質起源の変成岩からコース石を発見した"との衝撃的な発表を行ってから20年が経過した。1990年には現在のカザフ共和国からSobolevとShatsky2)が地殻物質起源変成岩からダイヤモンドを発見し、変成岩の最高圧力記録はさらに高まった(図1)。コース石やダイヤモンドを含む地殻物質起源の変成岩は超高圧変成岩 (ultra-high pressure rock) と呼ばれている。以下に、超高圧変成岩研究が地球科学に与えた衝撃を簡単にまとめる。
図1.高圧変成岩の地球内部の最高深さ記録の歴史
コース石の形成には600℃で27kbar以上、すなわち下部地殻から上部マントルに相当する圧力が必要である。1980年頃までは、地殻物質起源の変成岩の形成圧力は最高で15−20kbar程度と見積もられていた。この従来の見解は、"密度の小さな地殻物質はマントル深度まで潜り込まない"とするプレートテクトニクスの前提条件の一つを支持していたが、Chopinの発見はこの前提を覆し、"地殻物質もマントル深度まで潜り込む"ことを明白に示すことになった。
変成岩の形成圧力を正確に見積もるためには、岩石学や熱力学に対する理解とともに、特定の鉱物共生を持つ岩石を見つけ出すことが必要である。しかし、シリカ (SiO2) 鉱物はたいていの変成岩に含まれる。そのために、コース石の識別法、または、現在は石英であってもかつてはコース石であったことを識別する方法(こちらが圧倒的に多数)を習得すれば、その岩石が超高圧変成岩であるか否かを比較的容易に決定できる。Chopinの報告以降、世界中でコース石探しが精力的に展開され、2002年にはコース石やダイヤモンドを含む変成岩はユーラシア大陸を中心に、世界の約20箇所から見出されるようになった(図2)。これら超高圧変成岩の大半は、大陸同士が衝突して形成された造山帯から見つかっている。また、超高圧変成岩の変成年代は先カンブリア時代後期(西アフリカ・マリ)、古生代前期(ノルウェー、ウラル―天山山脈)、古生代後期(ボヘミア山地)、中生代前期(中国、大別山―蘇魯地域)、中生代後期−第三紀(アルプス、ヒマラヤ)におよび、"先カンブリア時代後期以降の大陸衝突型造山運動では、超高圧変成岩の形成は普遍的な地質現象"と解釈できるようになった。
図2.超高圧変成岩の分布
我々が超高圧変成岩を地表で入手するためには、地殻物質がマントルへ沈み込み、その後、地表へ上昇する必要がある。皆様もプレート地震の発生メカニズムを解説するニュースなどを通して、日本列島の下に沈みこむ海洋プレートの先端部は地下数百kmに達していることをご存知と思う。海洋プレートは主として玄武岩とマントル物質で構成されている。玄武岩はマグマが海洋底や地表に噴出し冷え固まった岩石であり、高温低圧下で安定な鉱物やガラスの集合体である。玄武岩が海溝で沈み込むと、低温高圧条件下で安定な鉱物の集合体に変化(変成)して行く。玄武岩が地下50kmより深く沈みこむとエクロジャイトと呼ばれる岩石に変成する。地下50−100kmで形成されたエクロジャイトはシリカ鉱物として石英を含むが、100kmを越える深度ではコース石を含むと推測できる。我々の足元で、毎年、大量(沈み込むプレートの長さ(数千km)×海洋地殻の厚さ(数km)×沈み込み速度(年数cm))の超高圧エクロジャイトが形成されていると考えると大変愉快である。
玄武岩がエクロジャイトに変成すると岩石の密度は増加する。高圧実験から推定された玄武岩・マントル物質・花崗岩組成の岩石の密度は、地下100−250kmではエクロジャイト>マントル物質>花崗岩、地下250km−660kmまでは花崗岩>エクロジャイト>マントル物質となる3)。主として玄武岩組成の地殻とマントル物質からなる海洋プレートが沈み込む場合、海洋地殻が変成したエクロジャイトは周囲のマントル物質より重く、地下660kmまでは沈み込みの駆動力となることが推測できる。どうも、海洋地殻起源の超高圧エクロジャイトを"大量"に見つけることは難しそうである。
ところが実際に世界各地で発見されている超高圧変成岩の大半はエクロジャイトである。しかし、超高圧エクロジャイトは数kmにも及ぶ大きな岩体として出現することは稀で、レンズ状の小さな岩塊として産することが多い。例えば、中国の山東半島の蘇魯超高圧変成帯では花崗岩質片麻岩が地域の大半を占め、超高圧エクロジャイトは延長500kmにおよぶ変成帯全域に小さな岩塊として散在しているに過ぎない。1993年以降、超高圧エクロジャイトのまわりの花崗岩質片麻岩もかつて地下100kmまで潜り込んでいた証拠が相次いで報告されるようになった4)。また、超高圧エクロジャイトの地球化学データは、エクロジャイトの原岩は海洋地殻起源ではなく大陸地域で形成された玄武岩類であることを示唆した5)。以上のデータから、蘇魯超高圧変成帯は昔の大陸地殻が大規模にマントル深度まで沈み込んだ地域と解釈できる。大陸地殻をマントル深度まで押し込む力(これも謎だが!)が失われたら、主として花崗岩質の変成岩からなる地質体は周囲のマントルより軽いため、マントルから下部地殻まで上昇する浮力として機能するだろうと考えられる6)。1990年代後半以降、蘇魯超高圧変成帯で得られた多くのデータはこの考えを支持する。しかし、このモデルにも未解明な点が残っており研究の興味は尽きない。
【参考文献】
1) Chopin, C. (1984) : Contributions to Mineralogy and Petrology, 86, 107-118.
2) Sobolev, N. V. and Shatsky, V. S. (1990) : Nature, 343, 742-746.
3) Irifune, T. (1994) : Mineralogical Magazine 58, 444-445.
4) Hirajima, T. et al. (1993) : Proceedings of Japan Academy, 69:Ser. B., 249-254.
Ye, K. et al. (2000) : Lithos, 52:157-164.
5) Jhan, B. M. (1998) : In: Hacker, B. and Liou, J.G. (eds) When Continents Collide. Geodynamics and Geochemistry of Ultrahigh-Pressure Rocks. Kluwer, Dordrecht, 203-239.
6) 坂野ほか (1997) : 科学, 67, 39-47.
※NTR News第23号 (2003年12月15日発行) に掲載

