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Glass Library

第13回 鉛ガラス

実験室の備品棚を片付けていたら引出しから出てきた、分厚い板ガラス。ずっしりと重いのでもしやと思い分析してみると、鉛が含まれているようです。鉛ガラスがなぜこんなところに・・・?というわけで、鉛ガラスについて調べてみました(ガラスの組成と性質については、NTR NEWS26号をご参照ください)。

鉛ガラスの歴史は古く、紀元前17世紀頃のバビロニアの粘土板にガラスの原料 として鉛を使うことが記されており、中国では紀元前5世紀頃には鉛バリウムガラスのガラス玉(トンボ玉)が作られていました。

日本では、弥生時代には鉛ガラスの装飾品が大陸から伝えられ流通していたと考えられており、正倉院に保管されている色とりどりのガラス玉の多くは日本で作られた鉛ガラスであることが同位対比などからわかっています。鉛の原料には金属鉛を酸化鉛にしたものが用いられたようです。その後中国からカリウム鉛ガラスが伝えられ、江戸時代になると江戸切子など様々なガラス容器が鉛ガラスを素材として作られるようになりました。

欧州では長い間鉛は着色ガラスの原料として使われていましたが、17世紀後半、イギリスで鉛を積極的に取り入れた透明な鉛クリスタルが開発されました。鉛クリスタルでは不純物(主に酸化鉄)による光の吸収を減らすために原料として高純度の石英(火打石=フリント)を使用します。さらに酸化ニッケル、酸化エルビウムなどの消色剤が少量加えられることもあります。こうして作られるガラスは透明度が高く、また、屈折率が高いために高級感のある輝きを持っており、家庭用ガラスや工芸ガラスとして人気を博しました。

そして電球。エジソンが発明した白熱電球はその後寿命を伸ばすために様々な改良が行われ、導入線の封着材料として融点が低く電気抵抗の大きい鉛ガラスが使われるようになりました。熱膨張率が電球本体のソーダライムガラスに近く、導入線との溶着がよいため、鉛ガラスは長い間白熱電球や蛍光灯に使われていました。

その他にも、高屈折率のために光学ガラスとして、また、絶縁性やX線の吸収性が高いことからテレビのブラウン管として、鉛ガラスは大活躍します。筆者が引き出しの中に見つけたガラスは電子顕微鏡の観察窓。人類が得た、最も小さなものを見ることができる顕微鏡にも、鉛ガラスは不可欠なのです。

このように、文明の発展を陰で支え続ける鉛ガラスですが、ご存知のとおり鉛にはもうひとつ有害元素であるという側面もあります。鉛を摂取し続けた場合人体に消化器症状、神経症状、貧血などの影響があり、小児には少量でも神経障害の原因となります。欧州では酸性雨の被害が深刻であり、寿命を終えた電気・電子機器の埋め立てサイトからの有害成分の溶出が懸念されます。飲み水の多くを地下水に依存する欧州ではきわめて深刻なことで、2006年7月1日以後、EU市場で生産・輸出入・販売される電気・電子機器への鉛の使用が制限されることになりました。

現在、白熱電球や蛍光灯に使われる鉛ガラスは酸化ストロンチウムや酸化バリウムを使用する鉛レスガラスに切り替わってきています。また、鉛ガラスの最大用途であるブラウン管ガラスも、分離解体技術の向上により非常に高い効率で再利用されるようになっています。鉛クリスタルも、耐化学性のよい組成にしておけば、人体に影響するほどの鉛が溶出することはないことがわかっています。

人体に有害な材料でも、使用方法・回収方法が適切であれば有用な材料であり資源であることには変わりありません。有害なものはどこが有害なのか正しく理解すること、再利用の場合はそれが何に使われるのか知っておくこと、そして、面倒くさいと言わずに、役目を終えたものは適切な方法で分別回収することが大切なのだなあ、と胸に刻みつつ、備品棚の引出しをそっと閉めたのでした。

<参考文献>
ガラスの技術史 黒川高明著 アグネ技術センター
ガラスの百科事典 作花済夫編 朝倉書店
魅惑のガラスノート 長谷川保和著 内田老鶴圃

NTR News第36号 (2008年5月7日発行) に掲載

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