- トップ
- コラム
- Analytical Recipe
- 薄膜の膜厚測定方法
薄膜の膜厚測定方法
−単層膜から多層膜までの膜厚解析技術の紹介−
|はじめに|触針式段差計|エリプソメトリー|電子顕微鏡観察|表面分析|X線による測定方法|その他の方法|関連ページ|
※NTR News第20号 (2003年12月10日発行) に掲載
はじめに
薄膜や多層膜の膜厚測定は、表面処理した機能性材料の開発や光学薄膜の最適化には必要不可欠な評価技術です。従来から用いられている走査型電子顕微鏡 (SEM) や透過型電子顕微鏡 (TEM) などによる計測から、X線や色々な波長の光を用いた実測とシミュレーションによる解析、あるいは直接的な探針を用いた触針式の測定による計測など、目的や用途に応じて多くの種類の評価方法を適用したり、あるいは組み合わせたりすることが可能です。ここでは、基板上に成膜された薄膜や多層膜に限定して、膜厚測定の方法を紹介していきます。
図1は、代表的な膜厚の測定方法について、用いる入力信号と測定方法を概略的にまとめたものです。この図で、薄膜や多層膜の膜厚測定においては、種々の信号を用いた評価や計測の方法があることがわかります。また、それぞれの方法には、厚さ方向の分解能や測定できる範囲、あるいは測定する試料に対しての制限があります。表1には、それらの概要を記載しました。各測定方法には、以下のような特徴と限界、あるいは分解能や注意すべき点が伴います。
図1. 代表的な膜厚測定方法
| 分析・測定技術 | 特徴 | 最大深さ | 分解能 |
|---|---|---|---|
| 触針式段差計 | 微小先端を持つ針を表面に接触させ膜厚や表面形状を測定する | 数100μm | 数Å以下 |
| エリプソメトリー | 試料表面で反射される光の偏光状態を測定して光学定数と膜厚を計測する | 2μm以下 | 数Å以下 |
| 走査型電子顕微鏡 Scanning Electron Microscopy : SEM |
物質に電子線を照射させて発生する2次電子線を検出する | 数mm | 1.5nm以上 |
| 透過型電子顕微鏡 Transmission Electron Microscopy : TEM |
透過する電子線を用いて微小領域の構造や組織を観察する | 数100μm | 0.2nm以下 |
| オージェ電子分光分析 Auger Electron Spectroscopy : AES |
イオンエッチングを行いながら電子線を照射させてオージェ電子を検出する | 200〜300nm | 数nm |
| 蛍光X線分析 X-ray Flourescence Analysis : XRF |
X線を照射させて発生する蛍光X線を分光分析する | 数10μm | 0.1nm |
| X線反射率測定 Grazing Incidence X-ray Reflective Technique: GIXR |
低角でX線を照射させて反射X線の干渉パターンから密度と膜厚を計測する | 200nm以下 | 0.1nm |
| X線光電子分光分析 X-ray Photoelectron Spectroscopy : XPS |
X線を照射させて発生する光電子を分光して結合状態を深さ方向で分析する | 200〜300nm | 数nm |
| 二次イオン質量分析 Secondary Ion Mass Spectroscopy : SIMS |
イオンを照射させて発生する2次イオンの質量を深さ方向で分析する | 数μm以下 | 数nm |
| ラザフォード後方散乱分光分析 Rutherford Backscattering Spectroscopy : RBS |
イオンを照射させて後方散乱したイオンのエネルギーから膜厚を計算する | 数μm | 数nm |
触針式段差計
最も簡便で測定時間も短く多くの分野での簡易測定に用いられています。しかしながら、高さ方向での急峻な形状の再現性が悪い場合があり、特にパターニングを行った薄膜の膜厚や、多層膜や積層膜などの膜厚の測定では注意が必要です。測定の内容(精度向上やばらつきの低減など)に対応して、探針の先端径には違いがあり、求める分解能の違いに対応する探針を選択する必要があります。
エリプソメトリー
紫外〜近赤外までの波長範囲での偏光特性を用いて薄膜の膜厚や屈折率などを測定します。入射光(直線偏光)とサンプル表面からの反射光(楕円偏光)の偏光状態の変化をPsiとDeltaという値で検出して、これらの値を用いて評価する試料のバルクあるいは薄膜系で膜構成モデルを作成して、さらにこれらの試料の光学定数に対してモデル関数を用いて、実測されたデータに合うように最適化していきます。多層膜などの測定も可能ですので非常に有効な分析方法ですが、測定値とモデルを用いた計算値とをフィッティングさせるために、以下のサンプルにおいては計算上の留意が必要です。また、微小領域の測定は原理的に困難です。
- 表面や界面の凹凸が膜厚の10%以上におよぶ薄膜
- 金属膜のように吸収が大きく感度の高いデータを得にくい薄膜
電子顕微鏡観察
薄膜の膜厚測定で最も一般的に行われている評価方法です。走査型電子顕微鏡 (SEM) を用いた観察では、撮影された像から直接的に膜厚を計測できるので説得力のある結果を得ることができます(図2参照)。ガラス基板の場合には破断面試料が最も適した試料調整法ですが、このようなガラスの破断面を作製するのには、ガラスに熟知したサンプリング経験とノウハウが必要です。さらに電極材料のような膜構造が複雑なサンプルでは収束イオンビーム加工(FIB)なども用いられます。
図2. SEMによる薄膜の観察結果
透過型電子顕微鏡 (TEM) は、わずかな膜厚の変動や存在も正確に把握することができ、微細な膜厚変動を調べる場合には必要不可欠な測定方法です。図3には、ガラス基板上に成膜したCr/Pt/Au多層膜のTEM写真を示しました。この図のように、膜厚はオングストローム単位で計測でき、さらに薄膜の成長や界面の構造なども詳細に観察することができます。
図3. TEMによる薄膜の観察結果
表面分析
現在、最も一般的に用いられている表面分析には、それぞれ以下のような特徴を持っています。
| XPS | アルゴン (Ar) イオンで表面をエッチングしながら深さ方向での組成や結合の情報を得ることができます。分析範囲は通常の条件で面内で0.5mmΦ前後なので、微小部の分析にはやや向いていないようですが、酸化状態や結合エネルギーなどの情報も同時に知ることができます(図4参照)。 |
|---|---|
| AES | ESCAと同様にArイオンで表面をエッチングしながら深さ方向の組成分布を調べることができます。オージェ電子は電気的に絞ることができますので、μm単位やそれ以下の微小な部分の分析や、膜中の欠点の解析(膜の中か界面かなど)、あるいはエッチング状態に左右されずに、深さ方向で高い分解能を持って分析ができます(図5参照)。 ただし、導電試料には有効ですが、ガラスのような絶縁試料には専門的な経験とノウハウが必要です。 |
| SIMS | 酸素 (O) やセシウム (Cs) などのイオン(正・負)を試料表面に照射させながら、同時に表面部分でイオンミリングを行って検出された二次イオンの強度とエネルギーから深さ方向の元素分析を行います(図6参照)。SIMSは微量成分の検出や同位体を分離しながら分析することができますが、定量分析には正確な標準試料が必要となります。 飛行時間型 (TOF-SIMS) を使用すると、フラグメント(いわゆる分子)などの状態で質量数を検出できるので、表面部分の有機汚れや有機成分の分析には有効です。 |
図4. XPSによる分析結果
図5. AESによる分析結果
図6. SIMSによる分析結果
X線による測定方法
| XRF | 通常の蛍光X線分析で得られたデータを、ファンダメンタル・パラメータ (FP) 法によって計算して解析することで、膜厚、密度そして組成の情報を得ることができます。X線を使用した分析では、オングストロームの単位で計測が可能です。精度の高い計算では、標準試料の正確な膜厚と密度(あるいは付着量)の値が必要です。 |
|---|---|
| GIXR | 高強度のX線を臨界角近くの低角で試料表面に入射させたときに、反射されたX線の干渉パターンを解析することで、薄膜の膜厚、密度、または表面や界面の凹凸の状態を知ることができます。膜厚はオングストローム単位で解析が可能ですが、エリプソメトリーやFP法と共に測定データへの計算値のフィッティングによって上記の値を求めますので、ミニマム解には注意が必要です(図7参照)。 |
図7. X線反射率法 (GIXR) による薄膜の分析結果
その他の方法
表1に示すように、ラザフォード後方散乱分光分析 (RBS) 法なども薄膜の膜厚を測定するには有効な評価方法です。この分析法は、Heイオンなどを試料表面に照射して、後方散乱されてくるイオンのエネルギーと強度から、成分と膜厚などを測定する方法です。しかしながら、この方法は測定結果に対して計算結果をフィッティングさせる方法であり、測定する薄膜の密度の正確な値が必要です。例えば、GIXR法などを用いて予め測定することが重要となります。このように、RBSによる膜厚測定は物質の密度に大きく影響されますので、表面凹凸が大きい場合には、シミュレーションされた膜厚の精度は悪くなります。
以上述べましたように、薄膜や多層膜の膜厚の測定に対しては、種々の評価方法が考えられます。それぞれの評価法は、測定できる膜厚や面方向の範囲、あるいは膜厚の計算結果などに対して、誤差や絶対値なども異なることがありますので、直接分析を担当しているメンバーにお聞き頂ければ幸いです。
当社では、永年に渡って、絶縁物のガラス基板を対象に、多くの薄膜や多層膜の評価を行ってきました。是非一度、当社の専門スタッフにお聞き頂ければ幸いと存じます。
このページの情報に関するお問い合わせは、当社伊丹事業所までお願いいたします。
関連ページ
以下の技術情報もご参照ください。
- 分析・試作技術紹介「分光エリプソメトリー(光学定数測定)」
- 分析・試作技術紹介「分光エリプソメトリー(測定方法・解析方法)」
- 分析・試作技術紹介「分光エリプソメトリー(解析事例-1)」
- 分析・試作技術紹介「分光エリプソメトリー(解析事例-2)」
- 分析・試作技術紹介「電界放射型走査型電子顕微鏡 (FE-SEM)」
- 分析・試作技術紹介「透過型電子顕微鏡 (TEM) 観察」
- 分析・試作技術紹介「蛍光X線分析装置 (XRF)」
- 分析・試作技術紹介「薄膜の密度測定(X線反射率測定)」
- 分析・試作技術紹介「X線光電子分光法 (XPS)」
- コラム|試験分析講座「高分解能SEM観察」

