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中級コース 結晶構造
|はじめに|単位格子|結晶系|ブラッグの回折条件|逆格子とエワルド球|回折パターンの解析|まとめ|
※NTR News第28号 (2005年8月1日発行) に掲載
はじめに
はじめに、結晶構造から材料の物理的性質を解明した一例を紹介します。例えば、鉄は、加熱すると体積が減少します。そこで、室温の時と加熱した時での結晶構造を解析すると、室温では体心立方(bcc)構造をとっていますが、加熱すると面心立方(fcc)構造(オーステナイトと呼ばれる)に転移することがわかりました。したがって、鉄の構造がbcc構造から最密充填構造であるfcc構造に変化したことに起因して体積が減少したことを説明できます。このように結晶構造を知ることで材料の性質を説明できることがあり、結晶構造解析による材料の特徴や製品の特性メカニズムの調査は、現在も様々な研究開発分野において重要視されています。
ここでは、最表面の結晶構造を解析できることで注目されている反射高速電子回折法による結晶構造解析方法を紹介しながら、結晶学の基礎について述べます。また、ここで述べるような結晶学は基本的に結晶性の材料に適用するものです。
単位格子
結晶とは原子からなり、その原子が3次元空間で周期的に同じ様式を繰り返すような配列をとっている固体をいいます。その3次元空間の基となる構造を図1に示すような単位格子と呼びます。すなわち、この単位格子を空間に繰り返し並べて形成されたものが結晶であると考え、結晶構造を解析していくことができます。単位格子の大きさや形は、単位格子のある点を原点とし、そこから引いた3本のベクトルa、b、cによって表すことができます。これらのベクトルは格子を規定するもので、結晶軸と呼んでいます。これら3本のベクトルa、b、cの長さ、角度が単位格子の格子定数を決定します。
図1.単位格子の概略図
結晶系
結晶軸の長さや互いの角度において決められた単位格子の形により様々な結晶を形成できます。こう考えると非常に多くの結晶構造が存在するように思えますが、結局はわずか7種の結晶系に相当し、14種の点格子(ブラベ格子)に分類されます。表1にそれらの結晶系を示し、また、図2にブラベ格子の模式図を示します。どのような結晶構造も基本となる単位格子の繰り返しでできており、この格子の長さなどを評価することで結晶系を解析することができます。次に、この格子の長さ(格子面間隔)を求めるために必要な定理について述べます。
表1.結晶系とブラベ格子

図2.14種のブラベ格子
ブラッグの回折条件
回折現象とは、固体表面に入射したX線や電子線が、固体表面で散乱されて固体内部の構造の情報を持ち放出される現象です。一般に、固体表面に入射したX線や電子線は、結晶の各格子面により特定の方向に進行する回折波を生じます。通常のX線回折や電子回折の回折波は、格子面間隔dの結晶面に入射角θと同じ角度で散乱され、以式の関係が成立した場合、
- 2d sinθ=nλ (n:整数、λ:X線の波長)
となります。隣接する格子面からの散乱X線や電子線の位相が等しくなり、干渉して強めあいます(図3参照)。すなわち、角度θの方向に強い回折現象が認められます。上式をブラッグ (Bragg) の回折条件、θをブラッグ角とよびます。
図3.X線の干渉原理(ブラッグの条件)
反射高速電子回折法 (RHEED) のように固体表面の第1層や第2層からの原子と弾性衝突した電子が放出される場合も、表面層の原子配列を二次元結晶と考えて取り扱うと、二次元結晶からの回折は原子列で散乱された波の干渉として解析できます。すなわち、ブラッグの回折条件に従うことになります。図4に原子列によって散乱された電子線の行路差を示します。波長λの波がdの間隔で平行に並んだ原子列に入射角θ0で入射し、θで出射したとすると、行路差がλの整数倍になる条件は、
- dcosθ0-dcosθ=nλ(θ0:入射角、θ:出射角、λ:波長、n:整数)
となります。上の式を満足する条件が成立すれば電子線は互いに干渉して回折します。したがって、回折パターンより格子面間隔を求めて結晶構造を解析することができます。
図4.二次元結晶における散乱波の行路差
逆格子とエワルド球
前項に示すブラッグの回折条件によって、回折角度は入射方向に対して2θとなり、波長λと回折角2θを測定すると格子面の間隔dがわかります。このように、結晶による電子線の回折現象を利用して、結晶の種類や面間隔などを求めることを結晶構造解析といいます。
ただし、反射高速電子回折法などの回折パターンから結晶構造を解析するためには、逆格子とエワルド球の概念を用いて、回折現象を2次元的に観察し解析することになります。そこで、“逆格子 (reciprocal lattice)”と“エワルド球 (Ewald sphere)”の概念を導入しなければなりませんので、以下に、逆格子とエワルド球の関係を説明します。
逆格子は、物質の結晶構造がわかれば作図することができます。図5にブラッグの法則を作図したもの、すなわち、逆格子とエワルド球の関係を示します。ブラッグの式を用いて、ブラッグ角(回折角度)をほかの物理量で表してみると
- sinθ=(λ/2)/d=(1/d)/(2/λ)
となります。そして、2/λの直径の円に内接するように、1辺が1/dとなる直角三角形を作図します。この図の物理的な意味を導きだすために、水平な直径AOが入射電子線を表すとすると、線APは入射方向に対してブラッグ角θをなしているから、電子線を回折する位置にある結晶面とおなじ傾きを持つことになります。この面は、図5の円の中心Cに示してある。そして、OPは結晶面に(したがってAPに)垂直であり、その長さは1/d=gであります。一方、∠OCP=2∠OAP=2θとなり、CPは入射角θで入って結晶面により回折された電子線の方向を表します。つまり、図5はブラッグの法則に従い、逆格子ベクトルgを用いて逆格子点を表現したものとなります。
図5.ブラッグの法則からの作図(逆格子とエワルド球の関係)
以上のことをまとめると
- 結晶は半径1/λの円(三次元では球)の中心Cにあると考える。
- 電子線が結晶を通過して円と交わる点Oが逆格子の原点である。
- 逆格子点(これは面(hkl)に垂直なベクトルg(hkl)の終端にある)が円(あるいは球)の上にあれば、ブラッグの法則が満たされ、電子線はこの逆格子点に向かう方向に回折される。
- 電子線の回折は逆格子点が円上にあるときにだけ起こる。三次元では円は球となり、これがエワルド球と言われる。
このように、逆格子とエワルド球を用いて、電子回折の原理を説明することができます。入射電子線と反射球との交点Oを中心として逆格子が存在するものと考え、図5のような作図を行って結晶面を解析することができます。
上述のエワルド球上の逆格子点hklに対応する格子面は、ブラッグの回折条件を満たしているという点までは、X線回折も電子回折も同じ解釈になります。しかし、反射高速電子回折法と通常のX線回折は、エワルド球の大きさに違いがあります。図6に反射高速電子回折法における逆格子とエワルド球の関係について示します。
図6.RHEEDにおける逆格子とエワルド球の関係
反射高速電子回折法では、結晶格子の面間隔に比較し電子線の波長が短い(波長0.01nm以下と小さい)ため、エバルト球の半径が逆格子からは平面とみなせるほど非常に大きくなります。よって、原点付近の逆格子が、歪むことなくそのままスクリーン上に投影されます(direct spot:入射点)。 また、平面と近似できる円上またはその近くにある交接点が回折斑点として蛍光板上に観察されます(diffraction spots:0次〜)。試料表面より下方へは電子ビームは出て行かないので、蛍光坂上では下方の反射は現れません。この稜線をshadow edge(シャドウエッジ)と呼びます。
なお、結晶の逆格子は、結晶構造と単位胞内の個々の原子の座標がわかれば計算することができるので、逆格子シミュレーションと観察した反射高速電子回折パターンを用いて、結晶構造や配向に関する詳細な解析を行うことができます。
回折パターンの解析
表2に回折パターンと結晶性の関係を示します。これらに示す回折パターンについて、以下に簡単に述べます。
電子回折単結晶の標準パターンは表2の2であり、この回折斑点の伸びを逆格子ロッドと呼びます。これよりも、さらに結晶性が良ければ表2の1のように回折斑点が強く現れさらに菊池線が確認されます。逆に格子歪が大きくなって干渉領域が平面で近似できなくなると、表2の3の例のようにスポット状になります。反射高速電子回折法では試料表面に微小な凹凸が多い場合も3の場合と同じパターンになります。また、異なる構造が存在していると、表2の4〜6のように回折パターンはそれぞれの重畳として観察されます。多結晶の場合には、表2の7〜9のようにスポットが繋がった曲線の回折パターンが観察されます。一方、非晶質の場合には、回折斑点のスポットは現れず、表2の10に示すような一面にぼやけたパターンとなります。これらの回折パターンの特徴は、観察される電子回折パターンから瞬時に結晶性を評価するための指針とすることができますので、非常に参考になります。
表2.RHEEDの回折パターンと結晶性
まとめ
ここで述べてきましたように、結晶構造解析の主要な方法はある種のビームを物質に当てた場合に起こる回折パターンの解析です。回折パターンは波が規則的配列によって回折される場合に得られますので、それらを解析することによって結晶構造や結晶状態を知ることができます。また、このビームとして、最も普通に使われるのはX線と電子線です。目的によっては中性子線などが用いられています。回折パターンの分析方法としては、X線回折装置によるX線回折法、電子顕微鏡観察による電子回折法、反射高速電子回折法 (RHEED) や低速電子回折法 (LEED) などがあります。なお、現在の結晶構造解析の分析評価では実験とともにシミュレーション解析が必要とされています。
<参考・引用文献>
1) 日本表面科学会編 :「ナノテクノロジーのための表面電子回折法」,丸善 (2003).
2) 岸田 悟 :ぶんせき,12,p32 (1996).
3) 朝倉健太郎、ほか :電子顕微鏡Q&A-先端技術解析のための手引き-,アグネ承風社 (1996).
4) 宇野良清,ほか:キッテル固体物理学入門(上),丸善 (1995).
5) 飯泉新吾:金属物性基礎講座第3巻 回折結晶学,丸善 (1981).
6) 一宮彪彦:表面科学,10 (11),p17 (1989).
7) 高見知秀:表面科学,25 (6),p47 (2004).
8) 岩崎 博、平林 真:X線結晶学の基礎,丸善 (1973).
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