- トップ
- コラム
- Glass University
- 特別編 FE-EPMA
特別編 FE-EPMA(電界放射型電子プローブマイクロアナライザー)
※NTR News第31号 (2006年9月1日発行) に掲載
はじめに
前コーナーの「Analytical Recipe(NTR News 第22号)」で取り上げたEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)ですが、このたび伊丹事業所に最新のFE-EPMAを導入しましたので、お披露目かたがた従来のデータとの違いや、特徴などをご紹介します。
1.FEって何?
EPMAの測定原理はバックナンバーに譲ることにしますが、新しく導入された装置の名称になにやら冠がついているのがおわかりでしょう。これは電界放出型:フィールドエミッション (FE) タイプの電子銃であることを指しており、電子線を照射する他の分析装置(SEMやAESなど)でもFEタイプの電子銃を搭載しているものが主流となっています。
なぜ、FEなのか?といえば、細く絞っても輝度の高い電子線が得られるためです(図1を参照)。「タングステンヘアピン型フィラメント」に代表される熱電子放出型(図2左)は、扱いが簡便でビーム安定性も高いため、SEMやEPMAでもっとも広く用いられている電子銃ですが、FEに分類されるショットキー形も大電流で安定性が高いビームを得られるため、WDS(波長分散型X線分光法)を用いた分析に適しているといえます(表1を参照)。表中のコールドタイプは、FE-SEMに用いられることが多い電子銃ですが、元素分析よりも高分解能の像観察に有利であることがわかります。
図1.各電子銃のプローブ径とプローブ電流の関係
図2.電子銃の比較(従来型と最新型)
表1.各電子銃の比較
| 熱電子放出型 W |
電界放出型 | ||
|---|---|---|---|
| サーマルタイプ(ショットキー) Zr/W (100) |
コールドタイプ W (310) |
||
| 光源サイズ | 50μm | 0.1〜1μm | 10〜100nm |
| 使用条件 真空度 [Pa] | 10-3 | 10-7 | 10-8 |
| 温度 [K] | 2,800 | 1,800 | 300 |
| エミッション電流 [μA] | 〜100 | 〜100 | 20〜100 |
| 長時間安定度 | 1%/hr | 1%/hr | 5%/15min |
| 用途 | EPMA、汎用型SEM | FE-EPMA | FE-SEM |
最近ではFE-SEMにEDS(エネルギー分散型X線分光法)を搭載して元素分析を行うことが多いため、原理的には同じであるFE-EPMAに戸惑われる方も少なからずいらっしゃると思います。FE-EPMAはWDSを搭載しているため、検出器による違い(表2)がもっとも大きいといえますが、同じFEタイプといっても、主目的(SEM−観察、EPMA−元素分析)に応じた電子銃であることも、両者の装置を特徴づけています。
2.検出器
WDSでは、試料表面から発生した特性X線の波長から元素分析を行います。図3は、EPMAの原理解説によく登場する図ですが、試料表面と分光結晶および検出器がローランド円と呼ばれる円周上に位置しています。
図3.波長分散型X線分光の模式図
表2に示したWDSの特徴にある、表面凹凸試料の正確なデータを得ることが難しい理由はこの検出方法にあります。図4に基準位置からずれた場合のX線強度の減少を調査したグラフを示します。分光結晶の種類や、X線検出位置などによって異なりますが、ガラス中のSiをTAPで測定した場合、±20μmずれると10%程度X線強度が低下する(=実際の含有量よりも少ない結果が得られる)ことがわかります。ここで、EPMAに詳しい方以外は「TAP」という見慣れぬアルファベットが気になるかもしれません。これはWDSに不可欠な分光結晶の一種です。
表2.WDSとEDSの分析比較
| WDS | EDS | |
|---|---|---|
| 分析限界濃度 B〜F Na〜U |
0.01〜0.05wt% 0.001〜0.01wt% |
1〜10wt% 0.1〜0.5wt% |
| エネルギー分解能 | 〜10eV | 〜150eV |
| 表面凹凸試料 | 不可(分析ソフト上で解決策がある場合も) | 可(凹凸が激しい場合には不可) |
図4.試料の上下方向の変位によるX線強度の減少
EPMAでは、B〜Uまでの元素を分析するために、面間隔 (2d) の異なる複数の分光結晶を組み合わせるのが基本です。弊社の従来装置にも、TAP、PET、LIF、NSTEが装備されていましたが、新装置ではNSTEに代わって人工超格子が2種類搭載されています。このため、軽元素の検出感度が格段によくなりました(図5)。さらに、人工超格子の種類の中には、Beが検出できるものもあるようです。
図5.軽元素用検出器による強度の違い
3.測定例
FE-EPMAの微小プローブを生かした分析事例と、電子線ダメージの影響を受けやすいガラス中のアルカリ元素分布分析についてご紹介します。
1)マッピング
図6-1は、ガラス上にSiO2とGeの多層膜が成膜された試料断面の二次電子像と反射電子像(平均原子番号の寄与が高いために組成像とも呼ばれます)です。中間に存在する薄層はそれぞれ20nmの厚みしかないのですが、反射電子像でGe(輝度が高い)とSi(輝度が低い)が明瞭に識別できることに驚かされます。
この試料について、Si、O、Geのマップ分析を行った結果を図6-2に示します。必要なX線強度を得るために照射電流を上げているため、図6-1の分解能には及びませんが、それでも最上層のGe(膜厚:125nm)が確認できました。さらに、膜中に存在したGe由来の微小異物についても、元素マップでその存在が認識できました。
![]() |
![]() |
a)二次電子像 |
b)反射電子像 |
図6−1.ガラス上多層膜 (SiO2/Ge)n の断面観察像
図6−2.ガラス上多層膜のカラーマッピング
2)Na濃度分布
EPMAをはじめ、電子線を照射する分析手法につきものの電子線ダメージですが、ガラスに多く含まれるNaはダメージを強く受けることが知られています。ガラス断面方向の元素分布を測定すると、従来は図7-aのようにNaのみ異常な分布が得られるため、Naとその他の元素は条件を変えて測定する必要がありました。このノイズのような分布は、試料ステージが次のステップに動くまでの間に、照射される電子線によってNaが減衰してしまうことが原因でした。
新装置では、図8に示すように電子線を走査しながらステージを移動させるため、ダメージのない平均的な分布を得ることが可能です(図7-b)。
図7.ガラス断面のアルカリ分布
(a:従来装置による線分析の結果、b:新装置による線分析の結果)
図8.ステージ走査帯状分析のイメージ
4.まとめ
もっとも信頼の高いEPMAにFE電子銃を搭載したことで、極微小領域の分析が可能になり、ますます応用範囲が広がると感じています。しかし、FE-EPMAの特徴や魅力をまだ把握しきれていませんので、いろいろな新しい試料や測定にチャレンジしていきたいと思っています。ぜひ、お気軽にご相談ください。
<参考文献>
装置カタログ 日本電子
第16回電子顕微鏡大学テキスト 日本顕微鏡学会 (2006)
日本表面科学会編 電子プローブ・マイクロアナライザー 丸善 (2000) など
このページの情報に関するお問い合わせは、当社伊丹事業所までお願いいたします。



