途中下車
第19回 ヘリコプターに乗ろう
ヘリコプターは、飛行場のない荒地や山の頂上や、あるいは危険な場所の上空など色々なところに簡単に飛んで行くことができ、その上空でホバリングしながら空中停止して詳細な状況や危険度などを調べることができる。また、移動速度も飛行機より遅いが短時間で効率的に移動ができる。私は、このようなヘリコプター(的考え方)を自分たちの仕事にも導入して欲しいと思っている。といっても、ここでは本物のヘリコプターではなく、ヘリコプターに乗って上空から未知の場所へ行く挑戦をして欲しいと言うことである。
抽象的なことを書いてもいけないのでもう少し具体的に説明してみよう。私たち技術者の基本は、皆さんが学生時代から現在までに学びながら経験してきた技術領域にあると思う。例えば、私は、大学から大学院で地質学や岩石学や鉱物学を専攻していたので、相平衡岩石学や鉱物学は一応得意とする分野である。しかし、大学時代はそれだけで良かったのであるが、企業ではありとあらゆる分野の素材や開発要素に絡むので、基礎分野だけでは直ちに限界がくる。そして自ら「できません」とか「無理です」ということになってしまう。学生時代ではそれで済んだたことも(本当はもっと可能性を引き出すべきとは思うが)企業では許されない。そこで、是非、ヘリコプターに乗って冒険(チャレンジ)に出て欲しいと思うのである。
このヘリコプターは仕事に対するある意味の刺激である。例えば、自分の基礎分野を大海の小島とすると(大ジャングルの中の小さな平野でも良い)、この小島の数が基礎分野の広さを示し、その面積が個々の分野と技術の深堀りの程度を示す。ヘリコプターは、自分の分野(領地)から他の島への上空からの橋渡しとなる。そして、未知の島に着いたら必ず自分の足で降り立って欲しい。見知らぬ物や技術に触れ、そして自分の島へ連絡橋を作って欲しいと考える。つまり、ヘリコプターで降り立った場所から自分の領地へ徒歩で戻ろう。近接した小島であれば橋を架けたいが、最初に無理ならば船で帰っても良い。ジャングル中に点在する平野ならばジャングルに道を付けながら自分の領地に帰ろう。山があるならばトンネルを掘ろう。
このように自分の一番得意とする技術領域を基点として、何度か他の技術領域に降り立ってみよう。時には難しすぎてそのままヘリコプターで帰ることもあるだろう。しかし、そうしたことを繰り返すことで、自分の領域を中心として上空から地図が描ける(自分の技術の位置づけが明確になる)。そして、小さな道やその達成の可能性もいつかは見えると考える。
ヘリコプターに乗って上空から見ることは、例えば、学会や講演会の発表で刺激を受けること、自分が行き詰ったときに異分野の技術の刺激を受けること、また、文献や特許や他社の技術内容から新たな思いを持ったときに、「こんな技術があるのか」と今の自分との違いを知るような状況と考える(そのために講演会では決して寝てはいけない)。ヘリコプターから降り立つことは、「さあー、行ってみようか!」と次のチャレンジに入ることであると思う。フライトの困難が大きければガイドと一緒に飛んでみよう。このガイドは、自分と対等に技術の議論ができ、プラスの方向にチャレンジを伸ばせる人である。異分野の技術者と議論ができ、そこから新たな発想が展開することを意味する(是非このような人を探して欲しい)。
いつまでも、望遠鏡で遠くの島を見ながら「見えません」、とか「行けません」ではいけない。先ずは刺激を受けるために「飛んでみよう」、そして上空から自分の技術の島を見ながら他の技術の島も沢山見て欲しい。そして、あまり遠くない島に飛んで行き降り立って欲しい。そのためにはヘリコプターは非常に便利である(飛行機ならば行き過ぎて何があるかはわからない)。こうしたことを繰り返しながら、自分たちの技術領域を増やし、また深堀りをして行きたいと何時も思っている。
※NTR News第31号 (2006年9月1日発行) に掲載

