光学シミュレーション
|はじめに|界面での光の反射・透過について|光学計算で扱う物理量について|マトリックス計算|基板の表裏でのインコヒーレントな反射|
本コーナでは、当社の技術資料や営業資料に良く出てきます光学薄膜設計(光学シミュレーション)について、その原理を簡単にご説明いたします。この技術は、すでに出版物によって、広く世間で公知の技術でありますが、マトリックス計算を伴うことや、専門的な取り扱いも含まれること、さらには光学定数のような常数の認識において経験が必要なこともあり、常に専門的にアプローチしている当社にお任せいただければ、よりタイムリーに、また高いレベルでお応えできるものと考えておりますので、今後とも宜しくお願い申し上げます。
はじめに
光には粒子としての性質と波としての性質の2つの性質があります。ここで説明するのは、波としての光の性質に関することです。光の波長に近い膜厚の薄膜に入射した光は干渉作用により複雑な振る舞いをします。このような干渉現象の算術的取り扱いは、単純な積和の計算では不可能です。そこで、一般的にマトリックス法と呼ばれる計算手法が用いられています。
ここではマトリックス法について説明しますが、本題に入る前にマトリックス計算に必要な知識について説明します。次に吸収のない媒質(媒質とは光を伝搬する物質)のみを扱う場合のマトリックス計算について説明し、その後に発展系である吸収を含む媒質を扱う場合のマトリックス計算について説明します。
マトリックス法で計算される値は界面反射率、界面透過率、界面吸収率であり、二つの媒質の界面での光学特性を計算できます。しかし、一般的には2つ以上の界面が存在するケースが多ので、例えば、基板は有限の厚みであるために、基板には表面と裏面が存在し、空気/基板、基板/空気の2つの界面が存在します。このような場合には、各界面での界面透過率、界面反射率、界面吸収率をマトリックス法により計算し、その後に表面と裏面の反射率、透過率、吸収率を含む透過率、反射率を算出するための多重反射計算を行います。多重反射計算は、光の干渉が起こらない厚みの媒質の場合に適用が可能です。
界面での光の反射・透過について
右図のように異なる2つ媒質で形成されている境界面では必ず光の反射が起こる。境界面での振幅反射係数 r は、(1)式で表すことができます。(1)式は、ρ=屈折率(屈折率の定義は後述する)の比であり、界面a)の場合 n1/n0 と表されます。
一方、振幅透過係数は、(2)式で表すことができます。
ここで、光が垂直入射である場合には、反射率 R と透過率 T は振幅反射係数と振幅透過係数を用いて以下のように記述することができます。(1)式、およびび(2)式から、
- r = (N0-N1)/(N0+N1)
- t = 2N0/(N0+N1)
屈折率 N0 および N1 が実数である場合(すなわち入射媒質、出射媒質が透明である場合)、
- R = r2 = {(N0-N1)/(N0+N1)}2 ・・・(3)
- T = N1・t2/N0 = 4N0N1/(N0+N1) ・・・(4)
と表すことができます。
上記の(3)式と(4)式より、R+T=1 であることが解ります。すなわち、吸収する媒質では、透過率と反射率を足すと1になることが解ります。
光学計算で扱う物理量について
1.屈折率
光学薄膜を扱う上では、その膜の光学的な物性を表す量が存在します。それは一般的に光学定数と呼ばれるものです。屈折率 N は真空中での光の速度 c と媒質中での光の速度 v の比で定義されます。
- N = n-ik ・・・(5)
ここで、i は虚数であり、i2 = -1 であります。
N は複素屈折率と呼ばれ、n は屈折率実数部、k は屈折率虚数部といいます。誘電体膜を扱う場合には透明体(すなわち k=0 )であるので、n が屈折率と称されることもあります。k は薄膜の吸収を表現する値であり、吸収係数αと次の関係があります。
- α = 4πk/λ ・・・(6)
ここで、αとは入射光の強度を 1/e の強度に減ずる伝播距離の逆数です。また、λは光の波長です。
2.位相膜厚
光が媒質中を伝播する時の位相の変化を表現する位相膜厚δも重要な量で次式のように表されます。
- δ = 2πNd cosθ/λ ・・・(7)
θ:光の入射角度(基板の法線となす角度)
λ:波長
d:物理的膜厚
マトリックス計算
マトリックス法では、扱う薄膜に固有の量である光学定数で定義される特性マトリックスから光学特性を計算できます。また、膜総数が多い多層膜の場合には、各膜の特性マトリックスの積が多層膜全体の特性マトリックスとして扱えます。このような点でマトリックス法は非常に優れた方法です。
1.特性マトリックスについて
上図に示す系の場合の薄膜の特性マトリックス M は、(8)式で表されます。ここでδは位相膜厚で(7)式で表わされます。
また、N は屈折率 ( = n-ik ) です。基板の特性マトリックスは、(9)式で表わされます。
基板の特性マトリックスには、位相膜厚が含まれません。この理由は、基板の厚みは光の波長より大幅に厚く、光の干渉現象が起きないからです。
2.反射率および透過率の計算方法
基板上に単層膜が形成されている場合の反射率および透過率の計算方法を述べます。反射率および透過率を計算するには光の入射する媒質からみたその薄膜系(膜と基板を含めた系)の特性マトリクスを求めることによって実現できます。上図における薄膜系の特性マトリクスを求めるには、膜のマトリックス M と基板のマトリックス MS の積で求まります。この結果は(10)式のように示されます。
ここで、光学アドミッタンス Y は(11)式のように表わされます。
光学アドミッタンスは、屈折率と同様に扱える数値です。このことから、振幅反射係数、振幅透過係数を求めるために、式(1)、式(2)を利用できます。
基板上に薄膜が形成されている場合の空気/薄膜/基板系の反射率を求めるには、アドミッタンスη0を持つ入力媒質とアドミッタンス Y の媒体との単純な境界面での反射率を求めるだけとなります。したがって、(1)式から振幅反射係数 r は(12)式で示され、反射率 R は(13)式で示されます。r* は r の共役複素数です。

透過率と吸収率は、それぞれ以下の式で求められます。この際、基板の光学アドミッタンスをηSとします。
3.多層膜への展開
上図のように第1層から第 k 層の薄膜が形成されている場合を考えます。このとき、第 k 層の特性マトリックスは、以下の(17)、(18)、(19)式で与えられます。

このような行列の積によって求められる多層膜の特性マトリックスも2行2列の行列となります。したがって、反射率、透過率、吸収率の算出は、単層膜の場合と同様に(10)、(11)、(14)、(15)、(16)式を用いて算出することができます。
基板の表裏でのインコヒーレントな反射
ここまでは、基板は無限の厚さをもち一方の側のみに面を有する平板として扱ってきました。しかし実際には基板は有限の厚みであり、裏面を有します。この裏面でも光の一部は反射され、薄膜系の光学性能に影響を及ぼします。そのため、ガラスの片面に薄膜を成膜した系の反射率を求める前面と裏面で反射される光を合成する必要があります。
基板の厚みは光の波長に対して非常に長いために、基板の表面と裏面の各面から反射された光は干渉することはありません。このため、薄膜系のようなマトリックス法は必要でなく、単純な等比級数として取り扱えます。以下に基板に吸収が無い場合について計算式を示します。ここで基板の内部透過率は t とし、裏面特性を含む反射率を R とし、裏面特性を含む透過率を T とします。
- R = Ra+ + Ta + tRb + Ta - { 1 + tRa - Rb+ + ( tRa - Rb+ )2 + ・・・}
= Ra+ + { t2Ta + Rb + Ta- / ( 1 - t2Ra - Rb+ )} ・・・(21)
(第2項以降が等比級数であることに着目) - T = Ta + tTb+ + Ta + t3Rb + Ra - Tb+ + Ta + t5Rb + 2Ra - 2Tb+ + ・・・
= Ta + Tb + t { 1 + t2Rb + Ra- + ( t2Rb + Ra- )2 + ・・・}
= Ta + Tb + t / ( 1 - Ra - Rb + t2 ) ・・・(22)
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