趣味的民俗学ノオト
第六回 本当の長者伝説を追え! 〜その壱 タカラノヤマハキットアルヨウナキガスル・・・〜
全国には多くの長者伝説がある。幾つかのお話をご存知の方も多いと思う(例えば山梨の「炭焼き長者」や東京の「だらだら長者」等)。チョウジャ・・・、この言葉の抑揚とその意味に心惹かれない人はいない(と思う)。しかし、ほとんどの長者伝説は、昔話や物語であり、庶民の希望が長く語り継がれてきたモノがほとんどであるが、やはりありました、本物が!その名も「旦富利長者(ダンブリチョウジャ)」伝説。
舞台は、秋田県と岩手県の県境。この地方ではトンボのことを「だんぶり」と言うらしい。だから彼の長者の名は「とんぼ長者」と言うことになるが、この長者どうやら実在したらしい。時は武烈天皇〜継体天皇の御世と言うから、西暦で言うところの500年頃のことであろう。主人公は後の通称を「直人(ナオンド)」。今の秋田県鹿角市(小豆沢)で親父さんと農業を営んでいた。そしてヒロインがもう一人。現在の秋田県北秋田郡比内町(独鈷)に住む女性。伝説はこの二人を神のお告げにより必然的に結び付けていく。ヒロインはある夜、夢の中で神様からのお告げを受ける。そのお告げを信じて、直人の所へ向かい結婚することとなる。しかし、一家は貧しい。貧しいけれど信心深い。ある日直人一家は、神のお告げにより住み慣れた土地を離れ家族共々現在の岩手県二戸郡安代町(当時は平間田、後に平又と呼ばれた村落)まで流れて来た。その土地で正直に暮らすうちに村人の信頼を得て、小さな畑や仕事をもらって細々と暮らしていた(あまりに正直な働きぶりに村人が付けた名前が直人であったらしい)。しかし、ここからも神様は直人一家を見捨てなかった。とある正月のこと、巷では餅よ酒よと浮かれているが直人家族には年を越すための餅も酒もない。せめて酒好きの親父さんに呑ませるお酒だけでも何とかならないか・・・。すると神様は直人をお酒の湧き出る泉へと導く。泉へ導く役を引き受けたのが「だんぶり」、つまりトンボである。その湧き出るお酒は、それはとてもすばらしい美酒で、近郷近在に止まらず遠くからも人々が集まり、お酒と交換に様々な金銀財宝を直人の所へ置いていく。直人家族はあっと言う間に長者になったということなのである。
ここまでならただの「養老伝説」か、と思われるだろうが、伝説はまだまだ続く。直人夫妻は、長者になってからどんどん使用人を増やし、朝夕に直人の家で使用するお米を洗うために近くの川が真っ白になったことがら、秋田県北部を流れる「米代(白)川(ヨネシロガワ)」の名前の基になったと伝えられているからその長者のスケールの大きさがうかがえよう(一説には、泉の水でお酒を作り財を成したと言われ、お酒を作るお米を洗ったために河が白くにごったとも言う)。これだけの使用人を用いて、散々金銀財宝が集まり、さらにその後の行いも良く直人夫妻は幸せに暮らしたと伝えられるが、二人には後継者がいなかった。そこで二人は、現在の岩手県浄法寺町にある浄法寺(瀬戸内寂長さんが住職を勤めるお寺ですね)の本尊にお参りをして子供を授かった。その子供がとても可愛らしく、長じて継体天皇の后になったと言うからこれまた本当かと思うが、史実にはその姫(名を吉祥姫)が実在しているから面白い。それにその姫と帝の間に皇子までいるのだから、この話はますます真実味を帯びてくる。そしてこの皇子が長者の隠した埋蔵金を探しにはるばる京から奥州までやってきた伝説も地元には語り伝えられている。がここから先の埋蔵金伝説は、現在の現地の模様と併せて次回の講釈とさせていただく。
<参考文献>
畠山清行(1973):日本の埋蔵金 上巻、番町書房.
水谷千秋(2001):謎の大王 継体天皇、文春新書.
秋田県の歴史散歩編集委員会(1989):秋田県の歴史散歩、山川出版.
※NTR News第18号 (2002年4月10日発行) に掲載

