趣味的民俗学ノオト
昔話の聞き取りをしていると、日本にも様々な未確認動物(UMA:Unidentified Mysterious Animal)が多いことに気づきます。例えば、「つちのこ」や「河童」、それに絶滅したとされる「ニホンオオカミ」や「ニホンカワウソ」等です。これがまた、結構人々の生活に密接に関わっていることが多いのです。そこで今回は、そんなUMAの一つを紹介します。
第十九回 湖底の怪物は以外に可愛い名前です 〜タキタロウを探して三千里・・・?〜
このUMA(未確認動物)の名を初めて聞いたのは、筆者が小学生の頃でした。筆者は関西出身なので、当時は東京より東に行ったことが無く、山形県の山深い湖に住む謎の魚をワクワクしながら想像したものだった。そのUMAの名は、「タキタロウ」。漫画「釣りキチ三平」で、その名を知ったことを憶えている。一世を風靡したこの「釣りキチ三平」で、主人公の三平三平(ミヒラサンペイ)とそのパートナー魚信(ギョシン)さんが山形県朝日村の大鳥池を訪れて、「タキタロウ」に挑戦するという筋書きである。最終的に、大きな「タキタロウ」を釣り上げるので、筆者などは、時間をかけて道具さえ揃えば、釣れるものだと簡単に思っていた。それよりも、同じ著作の中でも、釧路湿原で繰り広げられる「イトウ釣り」やカナダで挑戦する「キングサーモン」の方が難しいと感じていたものだが・・・。さにあらず、初めて筆者が大鳥池を訪れた時に地元の人に聞いて驚いた。魚影を見た、水音を聞いたという人はいるらしいのだが、実物を見たことはないと言うのだ。それでは、「タキタロウ」の正体すら解らないではないか。そこで筆者は、「釣りキチ三平」を例に挙げて、反論を試みた。すると、「あれは創作だ」との一言。そうだった、あれは「漫画」だった(しまった!)。
それから、筆者は、この「タキタロウ」を知りたくなった。今でこそ、湖の近くに「タキタロウ館」なる観光施設が出来ているが、当時(二十年以上前)は、ドライブインで話を聞いたり、タクシードライバーに噂を聞かせてもらったりする程度だった。一時マスコミも騒いで、地元には「タキタロウ」で町おこしという雰囲気も出てきていたので、「本等の様な嘘の話」が実しやかに流れていた。色々、聞き取りや郷土史あたっていくと、現在書籍やネット上で語られている「タキタロウ」のイメージが浮かび上がってくる。名前の由来は、初めて発見した人の名(瀧太郎)に由来するだとか、池の主である竜神の名(タキタロウ)だとも言う。そして、その正体は「岩魚」や「ヒメマス」が巨大化したものだとか「幻の古代魚」だと言うものもあった。いずれにしても、未だ不明であるが魅力的なUMAである。
地元では、正月用の尾頭付きの魚として珍重されていたとも聞いた。また、怒ると人を襲うらしい。意外に可愛い名前なので、人を襲うという話と結びつかなかったものである。正月用の魚が人を襲う?「人食い鯛」みたいなものか?さらに近世の書物に「タキタロウ」の文字が見えるらしい。どうやら、昔から何か居る、あるいは居たらしいことはうかがえる。山深い池に人を襲う巨大な魚がいる。これは、自然への畏怖やまだ見ぬ外界への創造の賜物と片付けるには、いささか生々しいと感じた。生物の寿命は、巨大化することで長くなると言う。数メートル(?)に達する「タキタロウ」も固体の寿命は長いのでは?古来日本では、長寿な動物や人が、人に害をなす別の生き物になるという思想があった。例えば、狐が代表的な例であり、姥捨てなる慣習にもその思想が背景にあったとも考えられる。そうすると、この「タキタロウ」巨大化するほど長寿であるため、時には神聖化や化物扱いされることで、禁を破った人間を襲うという伝説が自然に形成されたのかなと思いをめぐらせていると、湖面に大きな波紋が現れた。やはり、居ますよ「タキタロウ」は・・・。
<参考文献>
山口敏太郎(2005):本当にいる 日本の「未知生物」案内. 笠倉出版
※NTR News第31号 (2006年9月1日発行) に掲載

